【初心者必読】登山トレーニングの基礎知識:登山に必要な筋力とは?

登山を科学する

前回は「登山ってどんな運動?」ということに着目して解説をしました。

登山は大きく分けると「登り」と「下り」に分けることができます。

登りは重力に逆らって自身の身体を山頂まで持ち上げる運動となり、下りは山頂まで持ち上げた物体を加速度をコントロールしながら麓まで降ろす運動となります。

「登り」と「下り」といったいずれの運動も、平地を歩くことと比較してはるかに大きな筋力が必要な動作になります。

登山では日常生活内で必要となる筋力と比較して、大きな筋力を長時間発揮する必要があります。

このため、登山を志す人にとって「登山と筋力は切っても切れない関係」にあります。

では、実際に登山を行う時には、どの様な筋力が必要になるのでしょうか?

今回は登山に必要な筋力に着目して解説していきます。

登山に必要な筋力について

登山時に必要な筋力は大きく分けて3つに分類できます。

それは、「登りに重要な筋力」、「下りに重要な筋力」、「ザックを背負うために重要な筋力」の3種類です。

今回はこの3つに分けて説明していきます。

登りに重要な筋力について

少ししつこくなりますが、登りとは「身体を持ち上げる運動」になります。

登りの際には、身体を持ち上げるために必要な筋力が重要となります。

実際に登りの際に働く筋力には様々なものがありますが、特に重要な筋力は大腿四頭筋下腿三頭筋による筋力です。

大腿四頭筋は太ももの前側にある筋肉で、膝を伸ばす働きがある筋肉です。

山を登る時は足を上に持ち上げてから膝を伸ばす力を使って身体全体を上に持ち上げます。

この膝を伸ばすときに強く働く必要があるのが大腿四頭筋です。

また、山を登る際には地面をグッと蹴って身体を上に蹴り上げる必要があります。

この地面を蹴って体を上方に持ち上げる際に重要となるのが下腿三頭筋です。

下腿三頭筋はふくらはぎにある筋肉で腓腹筋とヒラメ筋の二つの筋肉から構成されています。

この筋肉が強く働くと足関節を底屈(立っている状態だとつま先立ちをするような動き)する作用があります。

この他にも多くの筋肉が協調的に働くことで動作は遂行されています。

下りに重要な筋力について

下りとは「山頂まで持ち上げた身体を加速度をコントロールしながら麓まで降ろす運動」となります。

山頂から自然と転がり落ちるだけであれば、特に筋力を使う必要はなく、重力によって生じる加速によって段々と落ちる速度を増しながら麓まで転がり落ちることはできます(中学校の時に習った力学的エネルギー保存の法則を思い出すと分かりやすいです)。

しかし、これではケガをしてしまうので実際には加速をコントロールする必要があります。

下りの際には主に加速をコントロールするために大きな筋力が使われています

この加速をコントロールする際に重要になるのが大腿四頭筋下腿三頭筋です。

登りの時と同じじゃないか!!って指摘されそうですが、登りの時とは違った使われ方をします。

筋肉の力を入れるための様式(収縮様式)には「求心性収縮」と「遠心性収縮」があります。

細かな話をすると難しくなってしまうので、求心性収縮は筋肉の長さが短くなることで力を発揮する運動方式、遠心性収縮は筋肉の長さを伸ばしながら力を発揮する運動方式とだけ理解して頂ければ問題ないかと思います。

また、遠心性収縮の方が大きな力を出すことができ、体重を支えながら関節を曲げる時に急にガクっと曲がらないように調節するときなどに役立つとされています。

大腿四頭筋と下腿三頭筋は登りの際は主に求心性収縮を用いて使用され、下りの際は主に遠心性収縮を用いて使用されています

下りの際に大腿四頭筋や下腿三頭筋を遠心性収縮を用いて使用することで、勢いよく身体が下に落ちていかないように加速をコントロールすることや、下りる際に急に膝や足首がガクっと曲がらないようにコントロールしています。

この他にも下りの際には姿勢を崩してしまうと転倒に繋がりやすいため、身体の様々な筋肉を駆使してバランスが崩れないように調節しています。

ザックを背負うために重要な筋力

意外な盲点ですが、ザックをしっかりと支えておく筋力も重要になります。

特に縦走をするような場合、ザックの重量はかなり重くなってくるのでこれを支えるための筋力も重要になります。

ザックを支えるために重要になるのが背筋群です。

基本的に登山中は上体をやや前傾位にした状態で移動することが多いと思います。

この際に重力に押されてザックを背負った上半身は前方へどんどんと倒れそうになっていき、何かが止めてくれないといずれ前方に倒れてしまいます。

この、前方に倒れそうになる動きを止めてくれているのが背筋群です。

登山時にはザックは背中にピッタリとくっつけた状態で固定されていることが多いと思います。

この様な状態の場合、背筋群の中でも特に脊柱起立筋が倒れていきそうになる上半身を止めようとしてくれます。

補足情報:登山は無酸素運動?有酸素運動?

筋力の話をする際によく話題に上がってくるのが無酸素運動と有酸素運動についてです。

登山はいったいどちらが主体なのでしょうか?

結論は「登山は有酸素運動が主体」です。

登山は急な坂道を登ったり筋力を発揮する場面が多いので無酸素運動が多く行われているように思われるかもしれませんが、実際には持続して重力に逆らって自身の身体を持ち上げ続ける有酸素運動が主体となっています。

この有酸素運動を持続するためには酸素と栄養が必要になります。

よって、実際に登山を意識した運動を行う際には有酸素運動の要素を取り入れてあげる必要があります。

少しでも楽して登るためにはどうすれば良いか?
答えは単純です。
上半身を極力膝や足の真上に位置するように近づけてあげて身体を持ち上げると効果的です。これはてこの原理と同様です(シーソーを思い浮かべてみて下さい)。
また、手を膝の上に置いて腕の力で補助するのも効果的です。

登山に必要な筋力をつけてあげるにはどの様な運動が必要になるのか?

登山に必要な筋力をつける運動とは?

ここまで登山の際に重要となる筋力について紹介してきました。

ここで気になるのが重要となる筋力を効率よくつけるためにはどうすれば良いかということです。

結論から申し上げますと「登山に即したか運動様式で訓練をしてあげる」。これにつきます。

一番良い方法は現在の自身の筋力や体力に応じた山に出向いて、少しずつ難易度を上げていくことです。

これがベストと言えます。

これは速く走れるようにするためには走る練習が重要になるということと同様のことです。

ただ、これでは山に中々行きにくい環境の方の場合、どうしようもなくなってしまいます。

そこで考えないといけないのがセカンドベストです。

登山と似たような運動様式になるのが階段昇降とスクワットです。

登山を意識する場合、長時間持続して行う必要がありますが、階段昇降の場合、自宅で長時間行うことが難しいことが考えられます。

よって、今回は自宅でもできるスクワットについて紹介します。

登山のトレーニングにおすすめ‼インターバル、マルチバリエーションスクワット

登山で重要となる大腿四頭筋と下腿三頭筋は登りの際には求心性収縮(膝を伸ばす、地面をける)、下りの際には遠心性収縮(ゆっくりと膝を曲げる、脚が前に倒れていきそうになるのを制動する)を行っています。

これはスクワット時の両筋の使い方と同じような使い方になります。

よって、スクワットは登山の訓練として適していると言えますが、通常のスクワットの場合、負荷やバリエーションが少ないことや持続時間が短いことが問題となります。

そこで、バリエーションを増やし、インターバルトレーニングとして行うことでこれを補うことができます。

インターバルトレーニングには心肺機能を向上させるといった有酸素運動能の向上効果もあるので登山にも適していることが考えられます。

インターバルトレーニングについて解説‼

別記事でインターバルトレーニングの解説も行っています。興味がある方は下記をご覧ください。
心肺機能を高めるインターバルトレーニングについて

今回はスクワットを3種類に分けて行うトレーニング方法を紹介します。

1.3秒かけて曲げて、3秒かけて伸ばす
2.10秒かけて曲げて、10秒かけて伸ばす
3.できるだけ早く曲げて、できるだけ早く伸ばす

まずは、1→2→3の順番で実施してみてください。

それぞれを45秒間実施し、30秒間のインターバルを挟んで行います。これを3巡します。

筋肉は同じ刺激が入り続けると少ない力で動作を遂行するようにズルをしてしまう習性があります。

よって、2→1→3などのように日によって順番を入れ替えながら行うと効果的です。

負荷が弱くなってきて楽に感じてきたらザックを背負いながらやってみて下さい。

*短時間でできますが、けっこうキツイ運動になるかと思います。キツすぎる場合は個人の能力に応じて回数や時間は変えてもらって結構です。

別の記事でも登山のトレーニング方法について紹介しています。興味がある人は下記をご覧ください。

エビデンスに基づく登山の筋肉痛を防ぐためのトレーニング方法

まとめ

  • 登山をするときに必要な筋力は「登り」、「下り」、「ザックを背負う」の3つの場面に分けられる
  • 登山では大腿四頭筋、下腿三頭筋、脊柱起立筋の3つの筋がkeyとなる
  • 実際に登山に向けてトレーニングをする際には、登山と同様の運動様式となる運動を行うことがポイント
  • 自宅でできるトレーニングとしては、インターバル、マルチバリエーションスクワットが効果的

参考資料

  • 坂井建夫:プロメテウス解剖学アトラス
  • 中村隆一:基礎運動学第6版
  • 山本正嘉:体力トレーニングの効果.登山医学 Vol.20 : 12-14, 2000
  • 斎藤繁:登山に必要な体力.臨床スポーツ医学:Vol. 34. No.3:238-243,2017

おまけ:おすすめのトレーニングアイテム

・スマートウォッチ

通常の時計としての役割だけでなく、ストップウォッチ、脈拍数の計測、歩数の計測などなど、と使い勝手が抜群です。

最近、安価になってきているので一つは持っていてもいいかと思います。

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