「もっと高く跳んで!」「手首をスナップして!」
バスケットボールの指導現場では、シュートフォームに関するアドバイスが飛び交います。しかし選手自身は、「ちゃんとやってるつもりなのに…」と戸惑うこともしばしば。
そんな悩みを解決してくれるのが、今、世界中のバスケットボール界で注目されているAI(人工知能)を活用したシュートフォーム分析です。
今回は、中国の研究者による最新のレビュー論文「A Review of Basketball Shooting Analysis Based on Artificial Intelligence」の内容をもとに、**AIがバスケットボールシュートをどう進化させるのか?**を、中高生選手・保護者・指導者向けにわかりやすくご紹介します。
■ シュートを「見える化」するAIとは?

従来、シュートフォームの改善はコーチの目やビデオを頼りに行っていました。しかしこれは主観が入る上に、どこをどう直せばいいのかがわかりづらいという課題がありました。
そこで登場するのがAIです。スマホなどで撮影された動画をもとに、AIは選手の動作を**数値と映像で“見える化”**し、以下のような情報を捉えることができます:
- 関節の角度(肘・肩・膝・手首など)
- ボールのリリース位置とタイミング
- ジャンプの高さや重心の移動
- 手首のスナップ動作の有無
- ボールの放物線(アーチ)と回転
つまり、選手が「なんとなく打っていたシュート」が、数値で可視化され、改善点がはっきりするというわけです。
■ AIができる3つのこと|シュート改善にどう役立つ?
① フォームの姿勢分析(Pose Estimation)
AIはカメラ映像やセンサーから、選手の関節の動きを捉えます。
たとえば、ジャンプシュートの際に:
- 肘が外に開いている
- リリースポイントが低い
- ジャンプ中に体が横に流れている
といった細かなクセを自動で検出できます。
実際の研究では、リリース角度が高すぎる選手や、リリースの位置が低い選手は、成功率が低下する傾向があることがわかっています。AIは、こうしたフォームのクセと成功率の関係性を明らかにし、改善のヒントを与えてくれます。
② 動作の安定性チェック
AIは、シュートごとの動作のバラつき(ブレ)も解析できます。
理想的なシュートフォームは、何度打っても同じような動作が再現されるものです。
研究では、成功率の高い選手は「動作の再現性」が高いことが示されています。AIでフォームを連続測定することで、「調子がいいとき」と「調子が悪いとき」の違いを数値で把握することができ、自分の安定した型をつくることが可能になります。
③ フィードバック&コーチング支援
AIは単にデータを出すだけでなく、「どこを直せばよいか?」を具体的に提示できます。
例)
- リリースポイントが低い → 肘の角度を5°上げましょう
- ジャンプ中に体が前に流れている → スタンスを広くしてバランスを取ろう
- フォロースルーが不安定 → 手首をしっかり固定してスナップを加える
これにより、選手自身も「何をどうすればよくなるか」を理解しやすくなり、“感覚のズレ”を修正しやすくなるのです。
■ 実際の研究でわかったこと|成功するシュートの傾向とは?
AIを用いた複数の研究をまとめた論文によれば、成功するシュートには共通するフォーム的特徴があることがわかってきました。
特徴 | 内容 |
---|---|
リリース角度 | 約45〜50度が理想(距離に応じて調整) |
リリースの高さ | 肩より高い位置でリリースされたシュートの成功率が高い |
滞空中の安定性 | 空中で体がぶれず、垂直に跳ぶ選手ほど成功しやすい |
フォロースルー | 指先がしっかりゴールを向き、手首にスナップが効いている |
また、AIはこれらを数値化できるため、成功するシュートと失敗するシュートの違いが視覚的・定量的に理解できます。
■ AIはこんな練習で活かせる!現場での使い方アイデア
AIはプロチームだけの話ではありません。今ではスマホアプリや比較的安価なセンサー機器でも、十分にトレーニングで活用できます。
● 活用例①:週1回の「AIフォーム診断デー」
選手のシュートをスマホで撮影 → AIアプリで解析 → コーチと一緒に結果を確認
→ 週ごとに改善点を設定し、次回にフィードバック
● 活用例②:フォームのビフォー・アフター記録
AIでフォームを記録し、改善前後を比較。成長が見える化されることで、モチベーションもアップします。
● 活用例③:個別アドバイスの最適化
AIが「肘の角度が狭い」「ジャンプが低い」などの傾向を教えてくれるため、選手ごとに異なるアドバイスが可能になります。
■ 中高生や保護者がAIを活用するメリット
✅ 選手にとって:
- 感覚だけでなく、客観的な指標で自分のフォームを理解できる
- 悪いクセを早期に発見・修正できる
- 試合中の成功率アップにつながる
✅ 保護者にとって:
- 子どもの成長や課題が「見える」ことで、応援の質が上がる
- 練習の成果を実感しやすくなる
✅ 指導者にとって:
- 一人ひとりの選手に合った具体的な指導が可能
- 映像とデータをもとに、説得力のあるアドバイスができる
■ まとめ|AIは「感覚」と「科学」をつなぐ最強のツール
- シュートフォームは「感覚」だけでは把握しにくい
- AIはフォームの数値化・可視化・比較を可能にし、改善点を明確にする
- 中高生世代にとっては、正しいフォームを早期に身につける大きな助けになる
- AIの活用は、選手・保護者・コーチすべてにメリットあり
これからの時代、AIは**シュートフォームを科学的に育てる“相棒”**になるはずです。
「感覚」+「見えるデータ」で、あなたのバスケを次のステージへ。
AIをうまく活用して、もっと“入る”シュートを手に入れましょう!
参考文献
A Review of Basketball Shooting Analysis Based on Artificial Intelligence
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