私の趣味である登山について、論文や専門書などをもとに科学的な視点から情報をまとめて紹介していきます。
登山ブームにより登山に取り組む人が大変多くなっています。
登山に対する正しい知識がない状態で山に入ると思わぬ、事故を招いてしまうことがあります。
登山に対する知識というと真っ先に山自体の危険性(遭難など)を理解することが上がってくるかもしれません。
山自体の危険性を理解することも重要ですが、登山で生じる身体への影響をしっかりと理解しておく必要もあります。
意外とこの部分が軽視されているようにも思われます。
この部分が軽視されてしまうと思わぬケガをしてしまうことや、最悪の場合、命の危険に繋がること考えられます。
山を万全な状態で楽しむために、しっかりと学んでいきましょう。
今回は「登山はどんな運動なのか?」といったことを説明していきます。
登山ってどんな運動?
登山で必要とされる体力は歩行を長時間継続するような単純な体力だけではなく、運動に必要な体力と山といった特殊な環境で健全な生理機能を維持するための体力を総合したものとされています。
これはつまり、一般的な体力の要素とされている、筋力そのものと、複数の筋肉群の動きをコントロールする中枢神経系機能、それらを長時間安定的に維持するための循環器系、呼吸器系の機能と全身のあらゆる臓器機能が登山に適した形で働く必要があります。
このように多くの身体機能が上手く働くことで登山を行うことができます。
登山を安全に行うためには筋力や体力だけでなく多くの機能が登山に適した形で働く必要があることがポイントです。
ところで、登山ってどんな運動か考えたことはありますか?
登山を単純な運動に置き換えると、登りは「重力に逆らってある質量がある物体(自身の身体)を山頂まで持ち上げる運動」と表現でき、下りは「山頂まで持ち上げた物体を加速度をコントロールしながら麓まで降ろす運動」と表現できます。
そこでまずは、登りと下りに分けて運動様式の違いを確認していきましょう。
登り
登りは重力に抗して質量がある自分自身を持ち上げ続ける運動になります。
この運動を遂行するためには二つの要素が重要となります。
それが重力に逆らって自身の身体を持ち上げるために必要な脚力(筋力)とこれを持続的に使い続けるために必要なエネルギー供給を行うための心肺機能や代謝機能です。
脚力(筋力)のみが注目されているようにも感じますが、実際には登りのつらさには筋肉に酸素やエネルギー源を供給する能力に問題があることが多いとも言われています。
下り
下りは山頂まで持ち上げた物体(自分自身)を加速度をコントロールしながらトラブルなく麓まで降ろす運動となります。
登山では圧倒的に下りでの事故が多くなるとされています。
これには下りに伴う加速が関係しています。
高いところから低いところへ質量がある物体が移動していくと加速が生じます。
下山時にはこの加速をうまくコントロールしないといけません。
加速が付きすぎると自身の筋力だけではバランスを制御することができずに転倒、滑落に結びついてしまうことが考えられます。
下りの際には、この加速をうまくコントロールするためにブレーキの役割として筋肉を使用したり、下肢の関節や上体の身のこなしをうまく活用する必要があります。
次に登山は無酸素運動なのか、はたまた有酸素運動なのかを考えていきます。
登山は無酸素運動?有酸素運動?
登山は急な坂道を登ったりすることで大きな筋力を発揮する場面が多いので、無酸素運動が多く行われているように思われるかもしれません
しかし、実際には持続して重力に逆らって自身の身体を持ち上げ続ける有酸素運動が主体となっています。
この有酸素運動を持続するためには酸素と栄養が必要になります。
登山では登りがつらく感じることが多いと思いますが、この登りのつらさは単純に筋力不足によるものだけでなく、筋肉に酸素やエネルギー源を供給する能力に問題があることが多いとも言われているくらいです。
筋肉に酸素やエネルギーをしっかりと供給するためには健全な臓器の機能(心臓、肺など)も重要になります。
このことより、持続的な運動習慣やしっかりとした健康管理で常に自身の身体を健全な状態にしておくことが山に入る前に重要になると言えます。
少しでも自身の臓器の機能に不安がある場合は無理をせず、お医者さんに相談をしてから登山に出掛けることが必要にもなります。
効率的に心肺機能を高めるトレーニング方法について別記事で解説しています。興味がある人は下記よりご覧ください。
– 効率的に心肺機能を高めるトレーニング方法
まとめ
- 登山がどの様な運動になるのか説明
- 登りは、重力に抗して質量がある自分自身を持ち上げ続ける運動
- 下りは、頂まで持ち上げた物体(自分自身)を加速度をコントロールしながらトラブルなく麓まで降ろす運動
- 登山は有酸素運動であり、酸素やエネルギー供給のためには臓器の機能も重要
参考資料
- 斎藤繁:登山に必要な体力.臨床スポーツ医学:Vol. 34. No.3:238-243,2017
- 大地陸男:生理学テキスト 第7版
- 本間研一:標準生理学 第9版
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