はじめに:インターバルは「ただの休憩」ではない
筋トレにおいて、セット間の休憩時間(インターバル)をどう設定するか――これは意外と軽視されがちな要素です。多くのトレーニーは「なんとなく1分」「疲れたら長めに」といった感覚でインターバルを取っているかもしれません。
しかし、インターバルの長さは、筋力・筋肥大・筋持久力・筋パワーといったトレーニング成果に直接影響する重要な変数です。
今回の記事では、筋トレとインターバルの関係について調査した複数のレビュー論文、メタ分析論文をもとに解説していきます。
目的別に最適なインターバルの長さとその理由を解説します。読者は一般のトレーニー、アスリート、トレーナー、運動指導者を想定し、現場で活用できる実践的な視点を提供します‼
インターバルは「休憩」ではない—体内のエネルギー工場で何が起きているか
インターバルの時間を科学的に決定するためには、まず筋収縮に使われたエネルギーが、休憩中にどのように回復しているのかを理解する必要があります。
私たちの筋肉が瞬発的な力を出すために主に利用するエネルギーシステムは2つです。
瞬発力の源:ATP-PCr(ホスホクレアチン)系の回復
高強度で短い時間(およそ10秒以内)の運動、例えば最大筋力トレーニングや爆発的なジャンプなどに使われるのが、ATP-PCr(アデノシン三リン酸-ホスホクレアチン)系です。このシステムは、最も速くエネルギーを供給しますが、貯蔵量が少ないためすぐに枯渇します。
インターバルにおける最重要課題の一つは、このPCrの再合成です。
| インターバル時間 | PCrの回復率(目安) | 発生するパフォーマンスの影響 |
| 30秒 | 約50% | 次のセットで発揮できるパワーは半減する |
| 1分 | 約75% | 高い強度での反復回数やパワーが低下し始める |
| 3分 | 約95% | ほぼ完全に回復し、前のセットと同等のパフォーマンスが可能 |
| 5分以上 | ほぼ100% | 最大筋力・パワーの維持に最も理想的 |
【納得の理由】
最大筋力やパワーのトレーニングでは、1セット目のパフォーマンスを極力維持することが、トレーニングの質を保つ上で不可欠です。PCrが完全に回復するには、最低でも3分、理想的には5分が必要です。そのため、インターバルが短いと、体はエネルギー切れのまま次のセットに突入することになり、狙った強度やボリュームを達成できず、トレーニング効果は低下してしまうのです。
疲労物質との戦い:解糖系と代謝ストレス
中程度の強度(8〜15回反復できる負荷)でのトレーニングでは、主に解糖系が働き、この過程で乳酸(水素イオン)が生成され、これが代謝ストレスを引き起こします。これが、筋肉の「パンプアップ」や灼熱感の原因です。
この代謝ストレスを意図的に高めるか、取り除くかによって、インターバルの長さが変わります。
- インターバルが短い(30秒〜1分):疲労物質が十分に除去されず、筋細胞内に蓄積した状態(代謝ストレスが高い状態)で次のセットに入る。これは、**成長ホルモン(GH)**などのアナボリックホルモン分泌を強く刺激し、筋肥大の要因の一つと考えられています。
- インターバルが長い(3分以上):疲労物質をほぼ完全に除去し、体はリフレッシュした状態で次のセットに入る。これにより、高強度を維持しつつ、より多くの総負荷量(トレーニングボリューム)をこなすことが可能になります。
このように、インターバルとは単なる休憩ではなく、体内のエネルギー供給システムと疲労物質の処理システムを、**トレーニング目標に合わせて意図的に操作するための「操作レバー」**なのです。
インターバルの長さが左右する「急性反応」と「慢性適応」
インターバルの長さは、以下の2つの観点からトレーニング成果に影響します:
- 急性反応:1回のトレーニング中に起こる生理的・パフォーマンス的変化(例:反復回数、ホルモン分泌、パワー発揮)
- 慢性適応:長期的なトレーニングによって得られる成果(例:筋力向上、筋肥大、持久力の改善)
インターバルの長さを変えることで、これらの反応・適応がどう変化するかを目的別に検証しています。
筋力向上には「3〜5分」のインターバルが有利
🔍 なぜ長めの休憩が必要なのか?
筋力向上を狙うトレーニングでは、高負荷(80〜90% 1RM)での複数セットが基本です。このような高強度トレーニングでは、神経系の回復とATP-PC系の再合成が不可欠。短すぎる休憩では、次のセットで十分な力を発揮できず、結果としてトレーニングボリュームが減少してしまいます。
📊 研究結果の例
- 10RM負荷で3セットのベンチプレスとレッグプレスを実施。1分休憩では反復回数が減少したが、3分休憩ではすべてのセットで10回を維持できた。
- 1〜5分の休憩を比較。5分休憩が最も反復回数を維持できた。
✅ 実践ポイント
- 筋力向上を狙う場合は、3〜5分の休憩を確保することで、各セットの質と総ボリュームを最大化できる。
- 特に複合種目(スクワット、ベンチプレスなど)では、神経系の回復時間が長く必要。
筋肥大には「30〜60秒」のインターバルが有利な可能性
🔍 なぜ短めの休憩が有効なのか?
筋肥大を狙うトレーニングでは、筋肉への代謝的ストレスが重要です。短い休憩時間でセットを重ねることで、成長ホルモンの急性上昇が起こり、筋肥大に有利とされます。
📊 研究結果の例
- 1分休憩の方が3分休憩よりも成長ホルモンの分泌が大きかった。
- 30秒休憩の中強度トレーニングが、3分休憩の高強度よりも筋断面積の増加が大きかった。
⚠️ 注意点
- 短い休憩ではコルチゾール(筋分解ホルモン)も上昇するため、ホルモン反応だけで筋肥大を判断するのは危険。
- 高強度を維持できない場合は、セットごとに負荷を調整する必要がある。
✅ 実践ポイント
- 筋肥大を狙う場合は、30〜60秒の休憩で代謝ストレスを高める。
- ただし、フォームの維持と回復力に応じて調整することが重要。
筋持久力には「20秒〜1分」のインターバルが有効
🔍 なぜ短い休憩が持久力に効くのか?
筋持久力は、疲労下でも反復動作を維持する能力です。短い休憩でセットを重ねることで、乳酸耐性や反復速度の維持能力が鍛えられます。
📊 研究結果の例
- 30秒〜2分の休憩を比較。2分休憩が最も反復回数を維持できたが、30秒休憩でも持久力的な刺激は強かった。
- 1分休憩では反復回数が大きく減少したが、3分休憩では高強度を維持しつつボリュームも確保できた。
✅ 実践ポイント
- 筋持久力を狙う場合は、20秒〜1分の休憩で疲労耐性を高める。
- ただし、反復回数を維持するために負荷を下げる工夫も必要。
筋パワーには「4〜5分」のインターバルが不可欠
🔍 なぜ長めの休憩が必要なのか?
筋パワーは、瞬間的な力の発揮能力。これは主にATP-PC系(ホスファゲン系)によって支えられており、完全な回復には4〜5分が必要です。休憩が短すぎると、エネルギー供給が解糖系にシフトし、乳酸蓄積→pH低下→出力低下という悪循環に陥ります。
📊 研究結果の例
- 70% 1RMで10セットのベンチプレスを実施。1分休憩ではパワーが低下し、乳酸が上昇。3〜5分休憩ではパワーを維持できた。
✅ 実践ポイント
- 筋パワーを狙う場合は、4〜5分の休憩でATP-PC系の回復を確保。
- 特にジャンプ系やスプリント系のトレーニングでは、出力維持が最優先。
目的別インターバル早見表
| トレーニング目的 | 推奨インターバル | 主な理由 |
| 筋力向上 | 3~5分 | 高強度維持・神経系回復 |
| 筋肥大 | 30~60秒 | 成長ホルモン上昇・代謝ストレス強化 |
| 筋持久力 | 20秒~1分 | 疲労耐性・反復速度向上 |
| 筋パワー | 4~5分 | ATP-PC系の回復・出力の維持 |
インターバルの長さは「目的」と「個人特性」で決まる
ここまでの内容から分かるように、インターバルの長さは一律ではなく、トレーニング目的に応じて戦略的に使い分けるべきです。さらに、以下のような個人差も考慮する必要があります:
- トレーニング経験:初心者は回復に時間がかかるため、やや長めのインターバルが有効。
- 年齢・性別:高齢者や女性は回復速度が異なる可能性があり、個別調整が必要。
- 種目の部位:上半身(例:ベンチプレス)は下半身(例:スクワット)よりも回復に時間がかかる傾向がある。
このように、インターバルは「ただの休憩」ではなく、トレーニング効果を最大化するための処方変数であることが分かります。
よくある誤解とその修正
❌ 誤解1:「インターバルは短い方が効率的」
→ 短いインターバルは確かに時間効率は良いですが、強度や反復回数が維持できない場合は効果が下がる可能性があります。
❌ 誤解2:「筋肥大にはとにかく短く」
→ 成長ホルモンの急性上昇は短いインターバルで得られますが、筋分解ホルモンも同時に上昇するため、長期的な筋肥大との関連は限定的です。
❌ 誤解3:「1分休憩で十分に回復できる」
→ 筋力やパワーを狙う場合、神経系やATP-PC系の回復には3〜5分が必要です。1分では不十分なことが多いです。
実践への応用:インターバルをどう設計するか?
✅ ストレングス期(筋力向上)
- 高重量(85〜95% 1RM)
- セット間休憩:3〜5分
- 種目:スクワット、デッドリフト、ベンチプレスなど
✅ ハイパートロフィー期(筋肥大)
- 中重量(65〜80% 1RM)
- セット間休憩:30〜60秒
- 種目:刺激を変えるためにマシン種目やアイソレーション種目も活用
✅ エンデュランス期(筋持久力)
- 低〜中重量(40〜60% 1RM)
- セット間休憩:20秒〜1分
- 種目:自重トレーニングやサーキット形式もアリ
✅ パワー期(爆発的出力)
- 高重量 × 低回数(例:3〜5回)
- セット間休憩:4〜5分
- 種目:ジャンプ、スプリント、オリンピックリフティングなどの爆発的な力を生むような動作もアリ。必要に応じてウエイトも併用。
まとめ:インターバルは「成果を左右する設計要素」
インターバルの長さは、単なる休憩ではなく、トレーニング成果を左右する設計要素です。目的に応じて適切に設定することで、筋力・筋肥大・持久力・パワーのいずれも効率的に伸ばすことができます。
科学的根拠に基づいたインターバル設計は、トレーニングの質を高め、怪我の予防や回復の最適化にもつながります。ぜひ、次回のトレーニングから「インターバルの長さ」にも意識を向けてみてください。
参考文献
・Estêvão Monteiro, et al. : Effects of Different Between Test Rest Intervals in Reproducibility of the 10-Repetition Maximum Load Test: A Pilot Study with Recreationally Resistance Trained Men (2019)
・Alec Singer, et al. : Give it a rest : a systematic review with Bayesian meta-analysis on the effect of inter-set rest interval duration on muscle hypertrophy (2024)
・Wilian de Jesus Santana, et al. : Recovery between sets in strength training : systematic review and meta-analysis (2022)
・Belmiro Freitas de Salles, et al. : Rest interval between sets in strength training review (2009)













コメント