”筋疲労の科学”右足を疲れさせると左足まで疲れる??筋疲労の不思議について

筋疲労

はじめに

前回は筋疲労に中枢性の疲労と末梢性の疲労があることを紹介しました。

今回は私が行った研究をもとに少し具体的な話をしていきます。

筋疲労とは「筋力を発生する能力の減少、または一定の筋力を維持できなくなる状態」と定義づけられています。

この筋疲労には筋肉自体が原因で生じる末梢性の疲労だけでなく、主に脳が原因で疲労が生じる中枢性の疲労があります。

筋肉自体が原因で生じる末梢性の疲労の場合、筋肉そのものに問題(代謝不全やエネルギー供給能力の低下など)が生じ、その結果として筋力を発揮できなくなってしまいます。

また、脳が原因で生じる中枢性の疲労は、意思や意欲などのモチベーションの低下が生じた結果、筋力の発揮ができなくなってしまう状態を指します。このモチベーションの低下には様々な代謝性物質や神経伝達物質の関与が報告されていますが、話が複雑になりすぎるのでこの部分は割愛させていただきます。

そこで私は、モチベーションの低下といった中枢性の疲労が存在するなら、「右足を疲れさせると左足まで疲れて力が出せなくなるといったことが本当に起こるのか?」といったことと、「末梢性の疲労と中枢性の疲労で回復の仕方が違うのか?」といったことに興味を持ちました。

この二つの疑問点を解決するべく研究を行いました。

右足を疲れさせると左足まで疲れる??筋疲労の不思議について

いきなり結論から

いきなり結論です。

この研究から明らかになったことは、「右足を自発的な運動で疲労させると左足まで力が出せなくなる」、「末梢性の疲労(筋肉自体)と中枢性の疲労(脳)で疲労回復の仕方に違いがある。末梢性(筋肉自体)の疲労の場合、遅筋線維が多い筋から回復し、中枢性(脳)の疲労の場合、すべての筋で一様に回復する」ということです。

ここから先は研究の詳細になるので興味がある人は読んでみて下さい。

まずは簡単に研究の方法を紹介します。

研究の方法

この研究は心身に異常のない健常な大学生を対象に行いました。

右足のふくらはぎの筋肉である下腿三頭筋(腓腹筋内側頭、腓腹筋外側頭、ヒラメ筋)を自発的に疲労させることで、左右の足の筋力や下腿三頭筋の筋肉の活動に変化が生じるか観察しました。

また、疲労させてからしばらく時間が経ったタイミングで、左右の足の筋力や下腿三頭筋の筋肉の活動を再度チェックすることで疲労回復の違いについても観察しました。

なお、筋肉の活動の計測には表面筋電図(筋肉が活動するときに発生する電位を計測する装置)と筋力の計測には筋力計を使用しました。

結果

  • 右足を疲れさせる運動を行ったのにも関わらず、左の下腿三頭筋の活動と筋力も低下→中枢性の疲労により左の下腿三頭筋と筋力が低下
  • 疲労させた右足と何もしてない左足で筋肉の活動の回復に違いがあった。
  • 疲労させた右足ではヒラメ筋が早く回復し、何もしていない左足では三筋一様に回復。

考察

右足を疲れさせたのに、左足の筋力や筋肉の活動量が低下したということは中枢性の疲労が関与したことが考えられました(左足の筋肉自体を疲れさせるようなことは行っていないから)。

右足を動かす際には左側の脳を使うと言われています。

つまり、右足を動かすような運動を行う際には左側の脳に疲労が生じてしまうはずです。

しかし、先行研究より、この疲労は反対側の脳にも伝搬することが明らかになっています(cross over effect)。

今回の研究でもこのcross over effectが影響したことが考えられました。

また、実際に疲労させた右足と何もしてない左足で筋肉の活動の回復に違いがあり、疲労させた右足ではヒラメ筋が早く回復し、何もしていない左足では三筋一様に回復しました。

ヒラメ筋は腓腹筋と比較すると筋疲労回復に有利な遅筋線維が多く含まれていると言われています。

このため、実際に筋肉を疲労させた場合には遅筋線維の割合に応じて疲労の回復速度に違いが生じることが考えられました。

また、何もしていない左足の場合は、筋肉自体は疲労していないわけなので遅筋線維の割合による影響は受けずに三筋一様の回復パターンを呈したことが考えられました。

本研究のまとめ

  • 右足を自発的な運動で疲労させると左足まで力を出せなくなり、筋力・筋活動ともに低下
  • 末梢性の疲労(筋肉自体)と中枢性の疲労(脳)で疲労回復の仕方に違いがある
  • 末梢性(筋肉自体)の疲労の場合、遅筋線維が多い筋から回復し、中枢性(脳)の疲労の場合、すべての筋で一様に回復する

この研究結果を踏まえて注意しないといけないこと

  • 運動による刺激が直接入っていなくても筋疲労が生じ、筋肉の活動や筋力は低下する
  • 筋疲労にも筋肉そのものの疲労と脳が原因の疲労とがあり、疲労の回復過程が違う→筋疲労の回復には筋肉のそのものの疲労を回復させることと、脳の疲労を回復させることの両方が必要になる

参考資料

  • 森谷敏夫:筋肉と疲労.体育の科学 Vol.42 5月号:335-339,1992
  • 丸山仁司他:疲労の克服戦略.総合臨床 Vol.55 No.1:127-132,2006
  • 佐藤寿晃他:随意収縮および電気刺激による筋疲労後の筋電図分析.山形保健医療研究 第9号:11-17,2006
  • 矢部京之介:筋疲労の神経機構.体育の科学 Vol.40 5月号:365-371,1990
  • 渡辺恭良:疲労のメカニズム-これまでの仮説と現在の仮説-.医学のあゆみ Vol.228 No.6:598-604,2009
  • 吉田卓磨他:一側の疲労課題が同側肢及び,対側肢の筋活動と筋力に及ぼす影響.新潟医療福祉大学医療技術学部理学療法学科学位論文
  • 大地陸男:生理学テキスト 第7版
  • 本間研一:標準生理学 第9版
  • 坂井建夫:プロメテウス解剖学アトラス

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