【筋トレと筋肥大】同じ筋肉の中でも部分的な筋肥大はねらえるのか(マニア向け)

トレーニング

同じ筋肉の中でも意識して部分的な筋肥大はねらえるのか

ボディメイクや筋肥大を目的に筋トレをしている人ならどんな人でも、自分がねらった部分をしっかりと鍛えたて筋肉をつけたいと思うものです。

筋肉の作用を考慮してトレーニングを行えば、それぞれの筋肉単位で筋肥大をねらっていくことは可能となります。

しかし、究極的なところまで突き詰めると、「この筋肉の中でも、○○の部分の筋肉をつけたい!!」みたいに同一筋内でも部分的に筋肉をつけたくなるものです。

例をあげるとするなら、「大殿筋の中でもより背中に近い部位だけ鍛えたい!!」みたいに。

では、実際に同一筋内での部分的な筋肥大は実際に可能なのでしょうか?

今回は同一筋内でも自分が筋肉をつけたい部分をねらって、意識的に筋肥大を誘発する事ができるかどうかといった点について複数の研究をもとに検討していきます。

筋トレと筋肥大について

復習:筋肥大が起きるメカニズム

以前、解説したことがある内容ですが、筋肥大の基礎的な内容になるので復習もかねて簡単に解説します。

筋肥大が起きるメカニズムには大きく分けて機械的負荷(メカニカルストレス)と内分泌系因子の二つの要因が関与します。

今回はこの二つの要因の中でも機械的負荷が関わってきます。

筋肉に筋トレといった機械的負荷が加わることで微細な損傷が生じ、それが修復する過程で筋肉が肥大化します。

トレーニング時の機械的負荷のかかり方が同一筋内で違っていれば、筋肥大が生じる程度も部位ごとに違ってくることが考えられ、筋肥大の程度も部位ごとに違ってくることが考えられます。

また、筋肉は速筋線維と遅筋線維といった特徴が異なる筋線維が集まってひとつの筋肉が構成されています。

この速筋線維と遅筋繊維の割合が同一筋内でも部位ごとに違ってくるのであれば、それぞれの筋線維タイプの特徴をいかして部分的な筋肥大を誘発することが可能かもしれません。

それでは実際に先行研究をもとに解説していきます。

研究報告をもとに部分的な筋肥大が可能かどうかを検討する

はじめに、いきなり結論から申し上げます。

結論は「トレーニング方法を工夫することで同一筋内でも部分的な筋肥大を誘発できる可能性は十分にある。」です。

では、なぜこのような結論に至ったのか先行研究をもとに解説していきます。

同一筋内でも部位ごとに速筋線維と遅筋繊維の割合が違う!?筋線維タイプによる影響

筋肉の線維は大きく分けると速筋線維と遅筋線維に分けることができます(厳密にはもっと細かく分けることができますが、話が複雑になるので割愛します)。

この速筋線維と遅筋線維の割合は各筋肉で違うとされています。

速筋線維と遅筋線維について

・速筋線維:短時間で大きな力を発揮するときに使われます。糖分をエネルギー源としており、ウエイトトレーニングのような瞬間的に大きな力を出すときに用いられます。

・遅筋線維:強い力を発揮することが出来ませんが、一定の力を長時間発揮する持久力があり疲れにくい筋肉です。

*負荷強度が少ない運動の場合、遅筋線維が先に使用され、遅筋線維が疲れてきたら速筋線維が使用されるようになります。

例えば、同じふくらはぎの筋肉である腓腹筋とヒラメ筋ではヒラメ筋の方が遅筋線維の割合が多いことが報告されています。

このように、それぞれの筋ごとに速筋線維と遅筋線維の割合が違うことは周知の事実だと思います。

実はこの速筋線維と遅筋線維の割合は同一筋内でも違っていることが動物実験をもとにした研究で明らかになっています。

例えばラットの後肢筋を対象にした複数の研究で同一筋内でも長軸部位別に速筋線維と遅筋線維の分布割合が違っていることが明らかになっており、長趾伸筋、長母趾屈筋、腓腹筋、前脛骨筋、長腓骨筋では遠位(身体の中心から遠い部位)で速筋線維の割合が多く、近位(身体の中心から近い部位)に向かうにつれて遅筋線維の割合が多くなったことが報告されています。

また、カニクイザルという研究でよく用いられるサルを対象にした研究では、大腿四頭筋でも長軸部位別に速筋線維と遅筋線維の割合が違っており、遠位で速筋線維の割合が多く、近位で遅筋線維の割合が多くなっていることが報告されました。

サルもラットも人間と同じ哺乳類であるため、人間においても同様に長軸部位別に速筋線維と遅筋線維の分布割合が違っていることが考えられます。

しかし、人を対象として研究する場合、倫理的側面から動物実験と同じような侵襲を伴う方法で研究を行うことは難しくなります。

動物実験と同様の侵襲的な方法と比較して妥当性は低くなりますが、筋電図という筋肉の活動を記録する機器を使った非侵襲的な研究方法を用いた研究により、人においても遠位で速筋線維の割合が多く、近位で遅筋線維の割合が多くなることが示唆される結果が得られたことが報告されています。

以上の報告より総合的に判断すると、人においても同一筋内の長軸部位別に速筋線維と遅筋線維の割合が違うことが考えられました。

つまり、速筋線維と遅筋線維はトレーニング方法により発達の仕方が違うため、トレーニング方法を変えることで筋肥大部位をコントロールできる可能性が考えられました。

具体例をあげるとすると、「速筋線維が多い遠位部をより発達させたいのであれば、少ない回数設定でより高負荷の運動を行う。」のようになります。

トレーニング時における機械的負荷のかかり方が同一筋内で違うのか?

筋肥大が機械的負荷の影響を受けて生じるのであれば、トレーニング時にかかる機械的負荷が同一筋内で不均一になることで筋肥大も部位ごとに変わることが考えられます。

この機械的負荷のかかり方の違いを調査した研究があります。

その研究ではトレーニング時にエコーを用いることで、同一筋内における機械的負荷がかかる部位の変化を関節角度ごとに調査していました。

その結果、関節角度を変えることで同一筋内でも機械的負荷がかかる部位が変化することが明らかとなりました。

具体的には、膝の曲がる角度が増えると大腿四頭筋の中でも遠位(身体の中心から遠い)で機械的負荷が強くかかり、膝の曲がる角度が浅くなると近位(身体の中心から近い)で機械的負荷が強くなることが明らかとなりました。

このように、関節角度が変わることで機械的負荷がかかる部位が変わる理由には、同一筋内でも関節角度ごとに力が入りやすい部位が違っていることが影響しているものと考えられました。

ここからはこの研究結果を受けての私の私見です。

基本的にはより伸張位にした方が筋肉への機械的負荷は大きくかかってくるはず(筋肉への機械的負荷は筋肉が出す力と外力の合わさったものだから)なので、鍛えたい部位がしっかりと伸張位の状態で力が入るようにトレーニングを行うことで、その部位の筋肥大を選択的にねらっていけることが考えられました。

つまり、関節角度を上手に調節することで機械的負荷がより大きくかかる部位を調節することがポイントとなるということです。

まとめ

同じ筋肉の中でも部分的な筋肥大はねらえるのかということに着目して解説しました。

複数の先行研究より、部分的な筋肥大をねらうことは可能であることが考えられました。

部分的な筋肥大をねらうポイントは「長軸部位別に速筋線維と遅筋線維の割合が違う」、「関節角度を変えることで同一筋内でも機械的負荷がかかる場所を調節できる」の2つを理解することです。

筋疲労の科学

筋疲労を理解していると筋トレを効率的に行うことができます。科学的なしてんから筋疲労について分かりやすく解説しています。興味がある人は下記よりご覧ください。
“筋疲労の科学”筋肉の疲労は乳酸だけが原因ではない‼筋疲労の正体とは!?
”筋疲労の科学”右足を疲れさせると左足まで疲れる??筋疲労の不思議について

参考資料

  • 市橋則明:筋を科学する-筋の基礎知識とトレーニング-理学療法学 第41巻 第4号 217-221, 2014 年
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  • Cureton KJ, et al.: Muscle hypertrophy in men and women. Med Sci Sports Exerc. 20(4) 338‒344,1989
  • 石井直方:筋肥大のメカニズムと筋力トレーニングの接点.日本臨床スポーツ医学会誌:Vo1.11No.3,2003.
  • 山田実:筋力トレーニングの基礎.総合リハ・第46 巻5 号2018 年5 月号
  • 津田英一:筋力増強の理論.Jpn J Rehabil Med 54, 740-745, 2017
  • 横山茂樹:筋力トレーニングの効果-神経因子の改善と筋肥大効果.PTジャーナル 第 52巻第5号.2018年
  • 本間研一:標準生理学 第9版
  • 鈴木英樹他:ラット内側腓腹筋における異なる部位の形態的・組織化学的適応変化ーギプス固定による骨格筋萎縮初期での検討.Bulletin of Aichi Univ. of Education 61, 37-39. 2012年
  • 山内秀樹他:ラット足底筋の組織化学的特性と非荷重による変化ー長軸方向の部位間での比較ー.リハビリテーション医学 38, 832-838. 2001年
  • 植竹昭雄:筋線維構成の筋内部位による相違に関する研究.昭医会誌第49巻第5号,444-453. 1989年
  • 荒木浩二郎他:筋力発揮時の筋内筋張力分布は不均一である せん断波エラストグラフィーによる検証

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